人の心は国にあらず、酒にあり
「働かずに飲む酒は美味いか?」
もはや人類の命題である、国民の義務である労働をせずましてや娯楽でしかない酒を飲む、許されるはずがない、だがあえて言おう「働かずとも酒は美味い」と。環境や周りの言葉など関係ない、酒とは美味いのだ。
またうなされて目が覚めた、やましい気持ちがあるといつもこうなる、こんな日はやっすい居酒屋で日本酒のあついのをくぅーっといきたい気分である、しかし働かねば酒を買う余裕もない、そんな矢先に「飲みに行こう」とLINEをくれたのはニューデリー出身のアジャンタ、生粋の酒好きでありイカしたナマステボーイである。そのアジャンタが誘ってくるときは毎度奢ってもらう、申し訳ない話だが酒が飲めるなら甘えるしかない、集合は毎度のこと6時、アジャ曰く飲む時間は長ければ長い程よいとのこと。そして話し合い場所を決める、今回の候補は恵比寿、十条、神保町、月島である、恵比寿はビールのイメージがあるが安酒っぽさがなく却下、神保町にいくなら二郎に行きたいので今回は十条か月島にしよう、ササッとしらべると月島はもんじゃ焼きが美味しいらしい、シメにも十分だし月島にしよう!とのことで行動開始(余談ではあるが月島を決めた理由に名前を聞いた瞬間コーランの54章「月」(Al Qamar)が浮かんだのもある)
月島は自宅から遠い、有楽町線終点の新木場、豊洲の隣である、ライブに行く人ならわかると思うがここら辺は本当に何もない、一抹の不安を抱えながらも改札でアジャンタにバッタリ、そのままいいお店があると連れていかれるままに商店街を抜ける。
閑散とした商店街を見渡すともんじゃ焼きのお店がズラリと、しかし今回のお店はもんじゃ焼きではないらしい、どんなお店なの?と聞くと「アジャ人生で一番美味しいと思った煮込みがある」とのこと、すこぶる楽しみである。
商店街も終わりに差しかかろうという時に1箇所だけ並んでる店が、これが今回のお目当「岸田屋」である、並ぶこと1時間、店内は狭く、古き良き大衆居酒屋の雰囲気である、最高だ、こんなのを望んでいたのだ、席に着くやいなや先ずはビール、それと煮込み、肉豆腐、ヌタを頼む、まずは乾杯といこうじゃないかと。
大衆居酒屋にはラガービールがよく似合う、飲みすぎないようにと他愛もないことを喋っているとお目当の品が到着した。
これがお目当の牛の煮込みである、しっかり煮込んでトロトロの牛に山盛りのネギ、ああ最高だ、とつまみ口に運ぶ。
ああ、これは人生で一番の煮込みだ。
ここまでトロトロで旨味のある煮込みは食べたことがない、暴力的なまでの美味しさをネギがシャキッと整える、ああ美味しい、ビールもどんどん進みなくなろうかという時に肉豆腐が到着
味の染みた豆腐のうえにこれでもかというほど肉とネギの乗った逸品である、うまい、同時にヌタも届きそのいい塩梅の味の濃さに日本酒を頂きたくなる。
次の注文で日本酒とイワシの煮付け、時間がかかるとのことだか些細な問題だ、煮込みも追加して日本酒と共にいただく、美味い、やはり酒とは美味いのだ。
話も進んで福岡に旅行に行こうかなどと言っているうちに隣のおじさんが入ってきた、ふた周りほど上だろうが、どうやら常連らしい。皆酒が進んで盛りあったところでこの店の美味しいものをいろいろ教えてもらった、基本何でも美味しいがこの季節は熱燗がおいしいらしい、なんでも沸騰するくらい熱いんだとか、頼もうと息巻いていると隣のおじさんが奢ってくれるらしい、ありがたい限りだ、そして熱燗とともに先ほどのイワシの煮付けが到着する。
これまた美味、しっかり味が染みて柔らかくもちろん骨ごといただける、それに熱燗をクッとやると天にも昇る心地である、そのまま隣のおじさんと一緒におにぎりで締める。
おにぎりまで美味いときたから困ったものだ、出たくなくなるではないか、しかし二人ともへべれけなのでここでお愛想、そのまま別の店でもんじゃをいただいて解散、実に、実に良い日であった。